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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)316号 判決 1967年9月09日

原告 中田観光開発株式会社破産管財人 登石登

被告 株式会社セントラルアパートメント

右代表者代表取締役 安田銀治

右訴訟代理人弁護士 朴宗根

主文

原告の訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「(一)昭和三八年七月二日附、茨城県北相馬郡取手町小文間利根川筋国有地(河川敷)占用に関する権利義務(原許可茨城県知事昭和三八年河川指令第八号)を被告に承継する旨を議決事項とする中央観光開発株式会社取締役会議事録、(二)同年同月二二日附右会社と被告間の右国有地占用に関する権利義務を右会社より被告に引渡す旨の契約書、(三)ならびに同年九月三日附茨城県知事岩上二郎宛、右国有地占用に関する権利義務を被告に承継したい旨の右会社代表取締役山名義郎名義の申請書は、いずれも真正に成立したものでないことを確認する。仮りに右請求が認められない場合は、前記(一)の取締役会決議、(二)の契約、(三)の茨城県知事に対する申請は、いずれも存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因を次のとおり述べた。

一、中田観光開発株式会社は、昭和三七年三月三日設立され商号を中央観光開発株式会社と称し、同三八年七月二五日現在の名称に変更したものである。

二、右会社は、ゴルフ場経営を目的として設立されたもので、設立後茨城県北相馬郡取手町小文間利根耕地の民有地をゴルフ場として買収すると共に、これに近接する同所利根川筋河川敷国有地の占用を茨城県知事に申請し、同県知事より昭和三八年一月三〇日附、昭和三八年河川指令第八号をもって、同所ゴルフ場七二一、六四二五アール、芝植生地三五八、四六二五アールを同日から満三年間、占用料半額三〇、六三四円を以って占用せしめる旨の原許可を受けた。

三、同会社は同三七年一一月債権者より東京地方裁判所に破産を申立てられ、同三九年二月七日同裁判所において破産の宣言があり、同日原告はその破産管財人に選任された。

四、右破産会社は、右破産申立後、昭和三八年七月二四日、安田英二こと朴魯楨との間に破産会社の営業ならびに債権債務一切を金一五〇万円を以って同人に譲渡し、一切の書類備品等を同人に引渡す旨の契約を締結したが、その後同年八月頃朴魯楨は、その子息である被告会社(当時の商号安田観光株式会社、昭和三九年八月二〇日現商号に変更)代表取締役安田銀治と共謀して、前記請求の趣旨記載の(一)の破産会社取締役会議録、(二)の譲渡契約書、(三)の県知事に対する申請書等を、いずれも朴魯楨が前記契約にもとずき引渡を受けた破産会社役員印鑑等を冒用して偽造し、これらを一括その頃茨城県に提出して、右各文書が真正に成立したものと誤信した同県知事から同年一二月二日附、右占用に関する権利義務を被告会社に移転することを認める旨の承認(昭和三八年河川指令第二〇〇号)を受けた。

五、しかしながら、右三通の文書作成については氏名を冒用されている破産会社役員等は全く関知せず、またかかる権限を朴魯楨、安田銀治等に委ねたこともない。当時破産会社役員等は朴魯楨個人が破産会社の事業を承継するというので、これを信じ営業等一切を譲渡したことはあるが、全く第三者たる被告会社に国有地占用に関する権利義務を承継することなどは想像もしなかったことであって、前記の如き取締会が開催された事実もないのである。(三)の申請書の如き代表取締役山名義郎名義となっているけれども、同人はその日附の以前たる同年七月二四日既に破産会社取締役を辞任し、その旨登記されているのである。かくの如く右文書はいずれも偽造されたものであることは明らかであるので、その真正に成立したものでないことの確認を求める。

六、仮りに右偽造が認められず、右文書が破産会社取締役等の適法な権限の下に作成されたものであると認定される場合は、かかる(一)の取締役会の決議、(二)の契約、(三)の知事に対する申請は、いずれも破産会社の前記国有占用権を失わしめることとなり、破産債権者を害する行為であることは明らかであり、当事者はいずれも破産債権者を害することを知ってこれを行ったものであるから、原告は破産法第七二条により本訴においてこれを否認する。よってかかる決議、契約、申請は何れも不存在に帰するのでその不存在の確認を求める。

なお、本訴は確認の利益を有する。すなわち、前記の如く茨城県知事は、本件法律関係を証する書面により被告会社に河川敷地占用に関する権利義務の移転を許可した。もしかかる書面がなければ右知事は被告会社に右移転を許可しなかった筈である。かくして被告会社に移転した河川敷地占用の権限は昭和四一年一月三一日、三年の期間満了により一応消滅し、かつ河川法の改正により、これが管轄は茨城県から建設省関東建設局に移ったけれども、行政官庁としては、従来許可を与えていた者が再申請をすれば、特別の事情なき限りその者に対し優先的に再許可をすることは実際上の取扱いであり、かつ被告会社は再申請をしているのであるから、被告会社が同局から占用を許可される可能性は十分に存する。裁判所の判決により本件移転関係書類の偽造たること、もくしは破産管財人の否認権行使の結果これら書類成立の前提たる各法律行為が存在しなかったことが確定すれば、行政官庁は裁判所判決を尊重する建前から被告会社の再申請に対して許可せず、または一旦下した許可を取消すことが当然考えられる。すなわちこれら証書の作成乃至はその前提たる法律行為が過去のものであり、かつ既に第一次占用期間の満了により本件文書に基ずく行政官庁の許可は一応消滅していても、これが不成立の確認を求めることの法律上の利益は依然として原告に存在するものといえるのであるから、本訴は確認の利益あるものとして許さるべきものと解する。

被告訴訟代理人は、原告の訴を却下する、との判決を求め、本訴請求中主位的請求部分すなわち証書真否確認の請求部分は、その証書の記載内容から現在における一定の法律関係の存否が直ちに証明されるものでないから、確認の利益がないものといわなければならない、また、予備的請求部分は、過去の権利関係の確認を求めるにあること、その請求の趣旨自体に照し明らかであって、これまた確認の利益を欠くものといわなければならない、と述べた。

理由

本件訴の確認の利益の存否につき判断する。

まず本位的請求につき。

本位的請求は、文書の真否確認の請求である。民訴法二二五条によれば、文書真否確認訴訟は、該文書が法律関係を証する文書であることを要するところ、本件についてこれをみるに、本件請求の文書は、河川敷占用権の譲渡に関する株式会社取締役会議事録、契約書、知事に対する申請書であって、いずれも河川敷占用権の権利移転に関する文書であること明らかであり、河川敷占用権が公法の権利であることもまた明らかである。

それ故本件請求の各文書が法律関係を証する文書に該当するものといわなければならない。

しかしながら、およそ確認訴訟においては、即時確定の利益があることが訴の要件であるから、過去の権利の存否に関する訴の如きは、右利益を欠くものというべく、従って証書真否確認の訴においても、過去の権利に関する証書の真否の確認を求める訴は、即時確定の利益を欠く、不適法の訴といはなければならない。

しかるに、本件河川敷占用権は、原告の主張によれば、昭和四一年一月三一日、三年の期間満了により既に消滅したものであるというにあるから、該河川敷占用権は現在存在しないものであって、過去の権利と言わざるえず、よってかかる権利を証する文書の真否の確定もまた即時確定の利益あり、というをえない。また、原告主張の、その後の河川敷占用の許可に及ぼす影響の如きは、該許可が、法律上は前の許可とは全く別個の行政処分であることを考えると、単なる事実上の影響というにすぎず、これをもって本件訴の即時確認の利益と認めることができないことは言うまでもない。それ故、本件訴は即時確定の利益を欠くものというべく、却下を免れないものである。

また予備的請求についても、即時確定の利益のないこと前叙と同様であって、これまた却下を免れないものである。

よって、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 中平健吉)

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